「やすしきよしやわ」
読み終わったあとにポツリ。
イタリアの作家アントニオ・タブッキの作品を薦められ、初めて読んだのがこの『インド夜想曲』
引き込まれるように一気に読み切ったことを覚えています。(152ページと短いしね)
タブッキの作風は夢幻的。それゆえに作品を読んでいると、掴みどころがなくて頭で理解しようとすると暖簾に腕押し、糠に釘、It is like beating the air!な私でございます。
掴もうとせんかったらいいんですけどね。前後関係や通説から理解したい左脳的な人間なもんで。
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そんなこんなで、タブッキの作品を読もうとすると頭で理解できなくて……眠くなる…諦める……のループへ突入。タブッキを薦めてくれた夫は「そのつかみどころがないのがええんやん」らしいです。
しかし、この本は左脳派の人にも面白い!(いやいや他の作品も面白いのですよ)『インド夜想曲』は一気読みです。
失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公。その主人公の前に現れる幻想に満ちた世界。
或る夜のバス停で出会ったきれいな瞳の少年の肩には無残な秩序と寸法を強いられた人間が乗っていた。その人間のことを少年は兄と言い、ジャイナ教の預言者だと言う。
過去も未来も見える少年が「兄さん」と呼ぶ預言者にカルマをみてもらう主人公。
●「ごめんなさい」「兄はダメだって言うんです。あなたは、もうひとりの人だって」
●「だれだろう?」僕は言った。「それはなんでもいいそうです。マーヤーにすぎないから」
マーヤー!!!ヨーガを学ばれている方にはおなじみマーヤー。 マーヤー=幻、幻影、イリュージョン
小さな姿の預言者は主人公のことをマーヤー=この世の仮の姿と表現
●「大事なのはアトマンです」「それじゃ、アトマンってなんだ」僕の無知に少年はにっこりした。「The soul.個人のたましいです」
●「もし僕がもうひとりの人間なら、僕が現在だれなのか、せめてそれだけは(兄さんに)訊いておくれ」少年はもう一度、寛容にほほえんで言った。「だって、それはあなたのマーヤーでしかないのに知ってどうなるんですか」
深ーーーーーーー!!!この話ふかーーーーーー!
主人公がインドを旅している中でインドの深層をなす事物にふれていきます。アートマン(作中ではアトマン)とかマーヤーという言葉がでてくるのがそれをあらわしていますね。
「マーヤー=幻想」である自分が何なのかを定義つけることに何の意味があるのだと。大切なのはアートマン。
言うなれば「釣りバカ日誌で浜ちゃんを演じ続けた西田敏行が、現実の世界でも自分のことを浜ちゃんだと思い込んでしまい、浜ちゃん(=幻)として自分探しをしようとしている。それは映画の中だけの話なのにそんなことして何の意味があるのかな。本当は西田敏行なのにね。」ってことかな。
(いや、この例え全然わからんやろ。)
またある時、旅の途中で出会った別の男が質問ともいうよりもただ確認をもとめるような調子で聞いてきた。
●「この肉体の中で、われわれはいったいなにをしているのですか」
●「これに入って旅をしてるのではないでしょうか」と僕は言った。質問されてから、かなり時間がたっていたかもしれない。
●彼が言った。「なって言われました?」「肉体のことです」僕がこたえた。「鞄みたいなものではないでしょうか。われわれは自分で自分を運んでいるといった」
この部分だけでも私にはストライクな表現。さらに
●「こうしてお会いした姿では、もうお目にかかることはないでしょう。このスーツケースではね。よいご旅行を」「あなたもよいご旅行を」僕はこたえた。
ズキュン!
ときます。今時ズキュンとか言わないですか?でもズキュンです。この肉体というスーツケースで空間だけでなく時間の中で自分で自分を運んでいる。どこにたどり着くかは自分次第。
「よいご旅行を」が実質的にしている<旅行>と、この肉体という入れ物でしている<旅行>にかかっていて深みがある。
●「シャヴィエルという人間を探している。ひょっとしたら、この辺に立ち寄ったかもしれないと思って」
トミーは首を横にふった。「だが、そいつは見つかりたいと思ってるのか」「わからない」「それじゃ、探すのはよせ」
最終的に主人公が探していた“友人”って誰なのかって話です。
探しているものは実は自分の近くにある。
つまり横山やすしの「メガネ、メガネ」なわけです。(ネタを知らない人は検索してね。)
読んだあと「はうわぁー」って溜息が出て、「灯台下暗し。やすきよやわ」
『アルケミスト夢を旅した少年』が好きな人はきっと好きな部類の本だと思います。
アントニオ・タブッキ 『インド夜想曲』
インド夜想曲 [ アントーニョ・タブッキ ] |
そうそう!映画にもなってるよ。
インド夜想曲 [ ジャン=ユーグ・アングラード ] |
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